
残暑の腸ケア:胃腸を休める夏バテ回復食
料理家、谷尻直子さんのコラム&レシピ #026

東京都渋谷区で予約制レストラン「HITOTEMA」を主宰。ファッションのスタイリストを経て、料理家に転身。「現代版のおふくろ料理」をコンセプトに、ベジタリアンだった経験や、8人家族のなかで育った経験を生かし、お酒に合いつつもカラダが重くならないコース料理を提案している。
立秋を迎えてもなお、照りつける陽ざしが体に堪える残暑の頃。暑さのピークを過ぎたようでいて、日中は真夏と変わらぬ蒸し暑さが続きます。
こうした時季に起こりがちなのは「夏バテ」!
食欲が落ち、冷たいものばかり口にして胃腸が疲れ切っている方も少なくありません。実はこの「胃腸の弱り」こそが、残暑における体調不良の根本です。

薬膳の視点から
薬膳では、夏の過ごし方が秋の体調を大きく左右すると考えます。五行で「脾胃」にあたる消化器は、湿気や冷えに弱く、冷たい飲食や過剰な甘味で容易にダメージを受けます。
脾胃が弱ると、倦怠感やむくみ、下痢などが起こりやすくなり、いわゆる「夏バテ」症状が現れるのです。そこで養生の要は、温性の食材や香りのよいハーブを取り入れて消化を助け、胃腸を立て直すことにあります。
生姜、紫蘇、山椒などのスパイス類は気の巡りを助け、余分な湿気を払う働きが期待できます。また、小豆やはと麦などは利水作用があり、むくみ対策にも効果的。夏の終わりは「冷たいものを控える」「温かい汁物を戻す」ことが、秋を健やかに迎えるための準備となります。
二十四節気の視点から
二十四節気では「処暑」(8月下旬)から「白露」(9月上旬)へと移る時期。
暦の上では秋が訪れても、まだ体は夏の余韻にとらわれています。昼と夜の気温差も次第に広がり、体温調整にエネルギーを奪われやすい時期でもあります。
この頃の食卓では、夏の名残であるきゅうりやトマトなどの瑞々しい野菜に加え、初秋のきのこや根菜を組み合わせていくのがおすすめです。夏の軽やかさと、秋へとつながる滋養を少しずつ同居させることが、季節の変わり目をスムーズに乗り切る知恵といえるでしょう。温かい出汁にハーブを浮かべたスープや、軽く火を通したきのこの和え物などは、まさにこの季節の養生にふさわしい一皿です。
西洋栄養学の視点から
西洋栄養学でも、夏バテの根底にあるのは「消化器の疲労」と「ミネラル不足」。汗とともにナトリウムやカリウムが失われ、体のバランスが崩れやすくなります。
残暑の食養生では、体液の調整に関わるカリウムを含む食材(枝豆、バナナ、きゅうりなど)を適度に摂りつつ、たんぱく質やビタミンB群を意識することが回復のカギです。
特にビタミンB1は糖質代謝を助け、疲労回復に役立ちます。豚肉や大豆食品、新米と合わせていただくと理にかないます。また、発酵食品に含まれる乳酸菌や酵素は腸内環境を整え、夏に乱れがちな消化吸収力を取り戻す手助けとなります。
残暑に寄り添う食卓の提案
たとえば「香味野菜たっぷりの鶏スープ」。生姜やねぎを効かせ、少量の塩麹で仕立てると、胃腸にやさしく滋味深い一皿になります。あるいは「ハーブ入りの酢漬け野菜」。爽やかな酸味は食欲を呼び覚まし、腸を健やかに保ちます。夏の疲れを抱えながらも、秋に向けて体をリセットする意識を食卓に添えることが大切です。

☑️ レモングラスを使用した鶏の煮物
☑️ 生姜を効かせた大葉巻きの豚肉ロール
☑️ 白身魚のセビチェ
☑️ きゅうりと枝豆とくずし豆腐 ポン酢ごま油
残暑のケアは、単なる「夏の締めくくり」ではなく、「秋を迎えるための助走」です。次号では実際のレシピをお届けしていきます。
今月は「香りを楽しみ、消化にいいものを摂ろう。」
そんなふうに季節を楽しみながら内側からの美と健康を作り上げていきましょう…!