
秋の甘みと香りを丸ごと〜根菜と実りのなんでも『炊き込んじゃうごはん』
料理家、谷尻直子さんのコラム&レシピ

東京都渋谷区で予約制レストラン「HITOTEMA」を主宰。ファッションのスタイリストを経て、料理家に転身。「現代版のおふくろ料理」をコンセプトに、ベジタリアンだった経験や、8人家族のなかで育った経験を生かし、お酒に合いつつもカラダが重くならないコース料理を提案している。
「切ってのせて、炊くだけ」 秋の恵みをまるごとごはんに
10月も後半になると、夜はぐっと冷え込み、秋が本格的に深まってきます。空気は澄み、空の雲もすっかり秋の装い。体はそろそろ冬に向けてエネルギーを蓄えはじめています。
この時期におすすめなのが、秋の野菜や木の実をなんでもお米と一緒に炊き込んでしまうごはん。
難しいことは考えず、調味料の計量もせず、旬の食材を切ってのせるだけで、体をじんわり満たす一膳になります。薬膳でも、かぼちゃ・さつまいも・にんじんは「脾(ひ)・胃」を助け、冷えから守ってくれる代表格。ビタミンや食物繊維も豊富で、腸内環境のサポートにもつながります。
作り方はとても簡単。
米をとぎ、通常の水加減にしてかぼちゃ、にんじん、さつまいもをのせて炊くだけ。味付けは炊いた後にお塩をふるだけ。
それだけ?と思ってしまうかもしれません。
でも、そもそも新米がご馳走なのです!
玄米にごま塩で美味しいように、炊き立てご飯と炊き立ての野菜に塩をひとつまみふるだけで十分美味しくいただけてしまいます。根菜系にはバターを少し落としてしゃもじで混ぜれば、香りとコクが広がり、なんと、脂溶性ビタミンの吸収も高まります。
◎かぼちゃごはん
皮をところどころ剥いて4~5cm角に切り、米と一緒に炊飯スイッチを押す。ほくほく感とやさしい甘み。仕上げに白ごまを散らすと香ばしさが際立ちます。

◎さつまいもごはん
さつまいもは変色しやすいので、先に米を洗ってから切りましょう。ボウルに水を張り、3cm程度の厚めの輪切りを米の上にのせて炊飯。少しバターを加えるとデザートのような贅沢感に。

◎にんじんごはん
70g程度の小さなにんじんなら、縦半分に切って皮ごと炊き込みます。

◎長芋ごはん
長芋は皮をむいて角切りにして乗せて炊く。ほくっとした食感とやさしいとろみが魅力です。

◎銀杏ごはん
銀杏は殻を割り、熱湯に浸けて5分おいて粗熱が取れたら薄皮を剥き、米の上にのせて一緒に炊く。

どれも、冷めてもおいしいので、お弁当や翌日の朝ごはんにもぴったり。秋は「白を食べましょう」ともいわれます。スープに白きくらげを合わせれば、肺をうるおす薬膳的な一品にも。冬に備え、食卓に『なんでも炊き込んじゃうごはん』を取り入れてみてください。
切ってのせて炊飯するだけの手軽さで、旬の力と野菜さまざまの栄養素を同時にいただけます。薬膳では秋は『燥』をいやし、肺や脾を養うことが大切とされています。根菜類は気を補い、腸を整える食物繊維も豊富。ほんの少しの油分(バターやごま油、オリーブ油)を合わせれば、脂溶性ビタミンの吸収が高まり、肌の乾燥や免疫サポートにも役立ちます。
この季節は冷たい飲み物や生野菜をとりすぎると脾胃を冷やしてしまうので、温かい炊き込みごはんがおすすめ。よく噛んで味わえば、自然な甘みが体をじんわり満たしてくれるでしょう。
美味しさの秘密は何かって?
炊飯器での炊飯時間は50分程度と長いため、野菜に含まれる澱粉質がしっかり糖化します。現代のテクノロジーである炊飯器は、実は野菜の甘みを最大に引き出す調理法とも言えるのです。甘くて美味しいからか、私の息子もかぼちゃごはんやさつまいもご飯が大好き!
薬膳的視点だと、『甘』という味で構成された食べ物は、精神的なストレスをやわらげる作用があるとされていて、ほっとしたいときにぴったり。
台所から広がる甘〜い香りと、それを引き立てるほんの少しの塩…。帰ってきた家族をほっとさせ、体と心をやわらかく包んでくれるはずです。
さぁ、今日は何を乗せて炊きましょうか。