
ハーブの力で秋の養生
料理家、谷尻直子さんのコラム&レシピ

谷尻直子 Tanijiri Naoko
東京都渋谷区で予約制レストラン「HITOTEMA」を主宰。ファッションのスタイリストを経て、料理家に転身。「現代版のおふくろ料理」をコンセプトに、ベジタリアンだった経験や、8人家族のなかで育った経験を生かし、お酒に合いつつもカラダが重くならないコース料理を提案している。
「なんとなく体が重い」「食欲が戻らない」
そんな残暑の不調をやわらげてくれるのが、ハーブの香りです。前号でお伝えした夏バテ回復の養生に続き、今号ではハーブの力を借りて『秋を迎える準備』を整えていきましょう。
薬膳の視点から
薬膳では、香りのある食材は「気」を巡らせ、食欲を回復させるとされています。バジルやミント、紫蘇といったハーブは、夏の余熱を冷ましつつ、胃腸の停滞を和らげる役割を果たします。
たとえば紫蘇は「解表散寒(かいひょうさんかん)」といい、体表にこもった余分な熱や湿を外へ発散させる働きがあります。
ミントの清涼感は「清熱解暑(せいねつげしょ)」と呼ばれ、熱気やイライラを鎮めるのに役立ちます。
これらをドレッシングに加えれば、毎日の食卓で自然に胃腸のバランスを整えることができるでしょう。
二十四節気の視点から
暦の上では「処暑」から「白露」へ。暑さの峠を越える一方で、昼夜の寒暖差が大きくなり、体調を崩しやすい時期です。この頃は、夏にこもった熱を抜きながら「潤い」を意識することが大切。
フレッシュハーブはまさにその橋渡し役です。香気が停滞した熱や湿を払い、ビネガーやオイルと合わせることで、これからやってくる乾燥の季節に備える潤いも補ってくれます。ハーブをドレッシングに仕立てれば、夏野菜にも秋のきのこや根菜にもよくなじみ、季節の移ろいをお皿の上で体感できるでしょう。
西洋栄養学の視点から
西洋栄養学でも、ハーブは抗酸化物質やフィトケミカルの宝庫です。
バジルには免疫を高めるβ-カロテンやビタミンK
ミントには消化を助けるメントール
ローズマリーには抗酸化作用をもたらすロスマリン酸
これらは夏の紫外線による酸化ストレスや、冷たい食事で弱った消化機能を立て直す助けになります。また、ビネガーとオイルと合わせることで脂溶性ビタミンの吸収が高まり、効率よく栄養を取り入れられる点も魅力です。
鶏手羽元と蕪のレモングラス煮
鶏手羽元と蕪(かぶ)に爽やかなレモングラスを合わせた一品。
塩麹の旨みと蕪の自然な甘みが重なり、だし汁と合わさるとまるで白湯スープのように。柔らかく煮た鶏肉や蕪は天然の旨みたっぷりの美味しい煮汁と共に、疲れた胃腸に優しく染み渡ります。

材料(2~3人分)
• 鶏手羽元(または手羽先)…500g(骨の位置まで切り込みを入れる)
• 蕪… 中2個(皮をむき半分にして面取り)
• レモングラス… 約6本(40g、取り出しやすくまとめる)
• にんにく… 1かけ(芯を抜きつぶす)
• 生姜… 1かけ(千切り、ひたひたの酢に浸ける)
• 塩麹… 大さじ1(または塩小さじ1/2+砂糖ひとつまみ)
• だし汁または水… 500ml
• 塩… 仕上げにひとつまみ
作り方(簡単ステップ)
❶ 鶏に塩麹を揉み込み10分(~1晩)おく。
❷ フライパンで鶏と蕪に焼き目をつける。
❸ 鍋にだし汁·レモングラス·にんにくを入れて煮立て、鶏を加え中弱火で10~13分煮て取り出す。
❹ 蕪を鍋に加え、さらに13~20分煮て柔らかくなったら、塩で味を調えて完成。
❺ 食べ進める際に酢漬け生姜を添えると、味変でさっぱり楽しめます。

※鶏に切り込みを入れると骨から旨みが出やすく、焼き目は香ばしさをプラス。塩麹がない場合は塩+砂糖少々でも代用可能です。
※献立には白米はもちろん、ジャスミンライスなどタイ米もよく合います。

ハーブドレッシング2種
• オリーブオイル… 大さじ3
• 白ワインビネガー… 大さじ1(酸味控えめなら小さじ2)
• いちじく(皮ごと刻む)… 小1個
• フレッシュハーブ(ディルやパセリなど)… 大さじ2(約10g)
• 塩… 小さじ1/6~1/4
塩麹を使ったドレッシング(2~3人分)
• オリーブオイル… 大さじ3
• 白ワインビネガー(または柑橘果汁)… 大さじ1
• 塩麹… 大さじ1(やさしい味なら大さじ1/2)
• フレッシュハーブ(バジル+紫蘇、ミント+ディルなど)… 大さじ2(約10g)
• 黒胡椒… 少々
※材料を混ぜるだけ。冷しゃぶや蒸し野菜、焼ききのこにかければ、酸味と香りが食欲を呼び戻してくれます。
夏から秋への橋渡しとして
フレッシュハーブは「夏の疲れを癒す」だけでなく、「秋に備える」役割も果たします。特にビネガーや塩麹と合わせることで腸を整える発酵の力が加わり、次の季節への準備がスムーズに。
余ったハーブ類はどんなものでも熱湯を注いでお茶にしましょう。私の10歳の息子はレモングラスティーが大好物で、食育のきっかけにも。それでも余ったら、お風呂に入れてハーブバスに。

残暑をしのぐ爽やかさと、秋に向けた滋養を一皿で叶えてくれるフレッシュハーブ。毎日の食卓にひとさじの香りを添えて、読書タイムやお風呂時間に。秋を健やかに楽しんでいきましょう。