野菜の内側に蓄えられた「太陽の力」を借りる冬

野菜の内側に蓄えられた「太陽の力」を借りる冬

料理家、谷尻直子さんのコラム&レシピ

谷尻直子 Tanijiri Naoko
東京都渋谷区で予約制レストラン「HITOTEMA」を主宰。ファッションのスタイリストを経て、料理家に転身。「現代版のおふくろ料理」をコンセプトに、ベジタリアンだった経験や、8人家族のなかで育った経験を生かし、お酒に合いつつもカラダが重くならないコース料理を提案している。

季節は立冬を迎え、本格的な寒さが身にしみる頃となりました。
子どもたちは冬休みやクリスマスに向けてそわそわし、大人たちは年末年始の行事と年末進行の仕事が重なり、頭の中もスケジュールも、慌ただしくなりがちな時期かと思います。
 
冬は日の出が遅く、日の入りが早い。
日照時間の短さを改めて意識すると、「天人相応」という言葉の通り、自然に合わせて人の行動を調整することが必要だと感じます。無理に活動時間を長く取らず、負担の少ないスケジューリングに切り替えることが、この季節の上手な過ごし方です。
 
動物の多くが冬眠するように、人間もまた「休息を促される季節」です。疲れが取れにくい、ぼんやりする、やる気が出にくい…。そうした感覚は、決して“あなただけ”ではありません。冬であるにもかかわらず、春・夏・秋と同じテンポで動こうとしてしまうことは、ひとつ、疲れの要因だと受け止めてみてください。
 
この時期は、大地の力を蓄えた根菜がぐっと育ちます。
流通が整っておらず冷蔵庫のなかった時代には、乾物が冬の食卓を支えていました。現代では生鮮野菜や果物が一年中揃いますが、昔ながらの健康の知恵に思いを馳せ、乾物にスポットライトを当ててみる良い季節だと思います。
 
切り干し大根、干し椎茸、昆布、ひじき、かんぴょう…。太陽の力をぎゅっと宿した乾物は、冬の食卓の強い味方です。
 
薬膳では、黒ごま、黒豆、黒キクラゲ、ひじき、海苔、くるみ、黒にんにく、黒米など「冬は黒を取り入れる」季節とも言われます。黒食材は、“腎(じん)” を補うとされ、冬の養生によく用いられます。ほぼすべてが乾燥食材であることに驚きます。
 
西洋栄養学の視点から見ても、黒い食材にはミネラル(鉄・亜鉛)や食物繊維、ポリフェノールが豊富で、季節の乾燥や冷えで不調が出やすい冬に嬉しい働きを持つと言われます。
 
また、暖房によって空気が乾き、喉がカサついたり、乾いた咳が出やすくなる方も多い季節。体を内側から潤す食材を組み合わせながら、冬の暮らしを整えていきましょう。
 
今回は乾物に焦点をあて、
切り干し大根白湯(さゆ)・椎茸の含め煮をご紹介します。 

切り干し大根白湯のレシピ

切り干し大根20gを600ccの水で、蓋をせずに中弱火で20分ほど煮出し、2/3量になったら火を止めてお玉で味見をします。甘みがしっかり感じられたら漉して完成。
 
出がらしの切り干し大根は、旨みのほとんど全てが汁に移った状態です。醤油・みりんで椎茸の含め煮のようにしても良いですが、個人的には美味しさの全てを汁にたくし、滋味深い切り干し大根汁を贅沢にいただくことが多いです。

切り干し大根の薬膳・栄養の視点

薬膳では「気を補い、巡りを整える」とされ、
西洋栄養学では
   •   食物繊維
   •   カルシウム
   •   鉄分
が豊富で、乾物ならではの旨みと栄養が凝縮されています。 

椎茸の含め煮のレシピ

簡単な作り方説明

戻した干し椎茸10枚の石づきを取り、昆布出し300cc+椎茸の戻し汁100cc、みりん大さじ2、砂糖大さじ2で15分煮る。その後醤油大さじ2を加え、さらに15〜20分ほど煮含める。

詳しい作り方説明

(材料 4〜5人分)
   •   干し椎茸 8〜10枚+水300cc
   •   昆布だし 300cc
   •   砂糖 大さじ2
   •   本みりん 大さじ2
   •   醤油 大さじ2

【作り方】

①椎茸は一晩水で戻し、戻し汁をとっておく
②昆布は水出しし、可能なら弱火で10分温めてだしをとる
③石づきを切り落とす
④鍋に昆布だし300cc、戻し汁100cc、みりん・砂糖各大さじ2、椎茸を入れ沸かす
⑤アクを取って弱火にし、落し蓋で15分煮る
⑥醤油を加え、さらに15〜25分煮含める

【コツ】

・「原木椎茸」を選ぶと風味が深まります。
・冷蔵で3〜5日保存可能です。

椎茸の薬膳・栄養の視点

薬膳では気を補う・巡りを整えるとされ、
西洋栄養学では
   •   ビタミンD(免疫サポート)
   •   食物繊維(βグルカン)
が多く、冬の食卓にとても向く食材とされています。

乾物の旨みは太陽の味

日照時間が短い季節だからこそ、食材の内側に含まれた「日の光」を取り入れたい。野菜のもつ「穏やかな力強さ」を活用し、自分自身のエネルギーを生み出していきましょう!
 
次回は、
棗・クコの実・蓮の実・白キクラゲ・オタネ人参などを使った薬膳鍋をご紹介します。お楽しみに!

サービスガイド